核物理や核化学などの基礎的研究は、現在すべての元素間の核反応を起こすことのできる高エネルギーの重イオンが望まれます。 そのため、タンデム加速器に高周波超伝導を利用した超伝導ブースターを設置し、原子質量200程度までの元素同士の核反応が可能になりました。 ![]() |
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タンデム加速器で加速した重イオンビームの直線コース延長上に超伝導ブースターが設置されており、ここで加速されたイオンビームは分析電磁石で90度偏向後ターゲット室に導かれます。 超伝導バンチャーは超伝導空洞を2個利用し、タンデム加速器からの重イオンビームに速度変調をかける装置です。これにより、イオンビームは超伝導リニアック入口で圧縮成形され繰り返し周波数130MHzのパルス状のビームとなりリニアックへ入射されます。 超伝導リニアックは、10基のクライオスタットから成り1基のクライオスタットには4個の超伝導空洞が入っています。 各空洞にはそれぞれ高周波制御回路が接続され、高周波電界の強さと位相等が独立に制御できるようになっています。 各位相はビームがその空洞を通過するときビームが加速されるように同期させることにより、速度の違ういろいろな重イオンビームを加速できます。また、位相を180度ずらせば減速することもできます。 超伝導デバンチャーは2個の超伝導空洞で構成され、ビームのエネルギー(または速度)を揃えるための装置です。 すなわち、超伝導リニアックで加速されたビームのエネルギーは幅をもつので、ビームを約10m走らせパルス幅が広がったところで、デバンチャー空洞の高周波電界によってパルスの先行部後行部のエネルギー差を打ち消すためのものです。 超伝導空洞を約4.5Kに冷却するためのヘリウム液化冷凍機2基がブースター室に隣接して設置されています。 |
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超伝導空洞とは超伝導体でできた空洞共鳴器で、共鳴周波数の高周波エネルギーを蓄積し強い高周波電界を発生することができます。 超伝導空洞の利点は壁を流れる高周波電流の損失が常伝導空洞と比べて約10万分の1となるため、わずかな高周波消費電力で空洞内に強い高周波電界を連続的に発生することができることです。超伝導ブースターはこれを利用して重イオンを加速します。 原研で重イオン加速用に開発した1/4波長型超伝導空洞の断面図を示します。 この空洞は超伝導体ニオビウム(Nb)を使用しており4.2Kにおいてわずか4ワットの高周波消費電力でドリフトチューブの周囲に6MV/m以上の強い電界を発生させることができます。 重イオンはドリフトチューブの前と後で加速されますが、ドリフトチューブ前後の電界は130MHzの周期で反転し、この電界に同期して重イオンが加速されます。 つまり、同期した重イオンはドリフトチューブ手前のギャップを通過するとき進行方向の電界で加速され、ドリフトチューブの中を通過している間に電界の方向が反転し、ドリフトチューブを出てからのギャップでも再び進行方向に加速されます。 この空洞は重イオンの速度が光速の5%以上であれば加速可能となり10%で加速効率が最高になります。 電荷1価当たりの最大加速エネルギーは1空洞で600~800keVです。 |
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図に超伝導ブースターで得られる加速エネルギーを示します。 点線のクーロン障壁エネルギーより高いエネルギーで核反応が起こります。 この図から、超伝導ブースターによるエネルギーの増強により原子核物理等の実験で利用できる重イオン核種の大幅な拡大をもたらすものとして期待できることがわかります。 従来、核反応を起こすことができたのは銅(Cu)くらいまでの重イオンビームが限界でしたが超伝導ブースターを使用することによって原子質量数200くらいまでの、たとえば金(Au)どうしを衝突させ核反応を起こさせることができるようになりました。 超伝導ブースターを組み合わせることによりタンデム加速器単独に比べ、エネルギーで2~4倍の性能を持つようになりました。 |
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1985年にニオビウムとニオビウム-銅の複合板を使ったテスト空洞を試作しました。 テストの結果5MV/mという高い加速電界が得られ、この空洞がブースター空洞の原型となりました。 1986年に超伝導バンチャーを製作、超伝導空洞の加速電界は6MV/mを越え、実際に重イオンビームのバンチに成功しました。 1988年からはクライオスタットの製作を始め1993年に超伝導ブースター全系が完成しました。 また、1995年度には反跳型生成核分離装置(原子核どうしが衝突した後に出てくる不安定核を分離するための装置)が設置されました。この装置を利用して未知重核探査などの実験、研究ができるようになりました。 |